太陽のふね(札幌芸術の森美術館)
札幌芸術の森美術館 :札幌美術展 アフターダーク、2021年、図録より引用
彫刻家・藤原千也は、中札内村にある鉄工所跡をアトリエに改装した。日中は高等養護学校で美術を教えているため、制作は主に夜に行われる。広いアトリエを照らすのは必要最小限の電灯のみ。暗闇の中、わずかに照らされた巨木と日々格闘しているのである。
全く加工していない無垢な状態の木を意味する「木形(きなり)」という室町時代の言葉がある。※1 藤原はそれを彫刻の世界観でとらえなおし、樹木そのものの性質を活かしつつ加工された造形を「木なり」であるとしている。それは樹木が自生していた状態を想起させたり、樹木の力を感じさせたりする造形で、特に江戸時代前期の仏師・円空が制作した仏像などに典型的に見られるという。※2
本展出展作<太陽のふね>を見ると、表面は木本来のふしやこぶが活かされており、かつてそれが大地に根をはっていた頃の姿を想像させる。少なくとも樹齢百年以上はあろうその木は、幾度となく日没と夜明けを経験し、明滅する幾多の生命を見つめながら形を作ってきたに違いない。
本作は、一本の天然の樹木を横たえたかのような迫真性を帯びている。しかし、その樹体は六つのパーツかの接合から成り、ノミや斧によって丹念に手が加えられている部分もある。アトリエと同様の照明でほのかに照らされ、暗闇から現れたその姿は宙に浮いているようにも見える。内部は奥深くまで内刳りが施されている。このような藤原の表現は、この樹木が幾層にも積み重ねてきた内なる歴史と対話する作業なのかもしれない。
木の内部に身を投じて彫るうちに、とうとう頭上の木が裂け、暗闇の中から一艘の光の船が現れた。それは繰り返される光と闇、生と死、つまりこの世の生命の輪廻を象徴しているかのようだ(N.U.)
※1.室町時代語辞典編集委員会編「時代別国語辞典 室町時代編二」三省堂、1989年
※2.藤原千也「円空と「木なり」」、「北海道芸術論評 第12号」北海道芸術学会、2020年、pp.3−17.
Title:
太陽のふね
Date:
2021
Material:
木(ポプラ)
Size:
h207 x w700 x d208(cm)